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高松高等裁判所 昭和33年(ラ)51号 決定

抗告人 横田佐太郎

主文

原競落許可決定を取消す。

本件競落は許さない。

理由

本件抗告の趣旨は、原決定を取消す、本件競落はこれを許さない旨の裁判を求めるというにあり、その理由とするところはこれを要約すれば、

一、申立外債権者石山秀吉は抗告人に対し貸金元本三口にて合計十六万五千円の債権ありとして、右債権の弁済をうけるため抵当権の実行として本件競売申立をなし競売手続が進行したものであるが、抗告人はその後右債務を逐次弁済し残債務額三万八千九百一円となり、最後に右残債務額に本件の競売手続費用を加えて合計四万五千九百一円を所轄法務局に弁済供託した。従つて抵当権は消滅に帰したものである。

二、本件競落にかかる不動産は四筆であるが、右四筆全部を競落しなくとも売得金をもつて各債権並に執行費用を償うに充分であるから、本件競落は競売法にも準用せらるべき民事訴訟法第六百七十五条に違反する。

三、数個の不動産を分別して競売した場合には競落許可決定に各不動産別の最高価競落代金を明示すべきであるのに、原競落許可決定には最高価競落代金の合計額を一括表示していてこの点明示を欠く。

以上いずれの点からするも原決定は違法にして取消さるべきである、というにある。

よつて按ずるに、一件記録に徴すれば申立外債権者石山秀吉は抗告人に対し(イ)昭和三十一年三月三十日金八万円を弁済期同年九月末日、利息月一分二厘、遅延損害金元金百円につき日歩五銭の約で、(ロ)同年九月二十八日金五万円を弁済期昭和三十二年五月三十一日利息月一分五厘遅延損害金元金百円につき日歩五銭の約で、(ハ)昭和三十二年二月二十一日金三万五千七百円を弁済期同年六月末日利息月一分五厘遅延損害金元金百円につき日歩五銭の約で、夫々貸付け且右(イ)(ロ)の各債権に対しては各々抗告人所有にかかる別紙目録記載の(一)(二)(三)の各不動産につき、右(ハ)の債権に対しては同目録(一)(二)(四)の各不動産につき、その都度抵当権の設定並に同登記を受けたこと、その後右債権者は、右(イ)の債権に関しては元金八万円及びこれに対する昭和三十二年七月一日以降完済に至るまで金百円につき日歩五銭の割合による遅延損害金、右(ロ)の債権に関しては、元金五万円及びこれに対する昭和三十二年七月末日以降完済に至るまで金百円につき日歩五銭の割合による遅延損害金、右(ハ)の債権に関しては、元金三万五千七百円及びこれに対する昭和三十二年七月一日以降完済に至るまで金百円につき日歩五銭の割合による遅延損害金、の各弁済を受けるため抵当権の実行として前記(一)ないし(四)の各不動産の競売を申立て、競売手続進行の結果申立外山崎三郎が右(一)の不動産に対しては金十二万円、(二)に対しては金六万三千円、(三)に対しては金二万八千円、(四)に対しては金三万二千円の各最高価競買申出人として昭和三十三年九月十六日右代金額による競落許可決定をうけたこと、如上の事実が認められる。

ところで抗告人は、前記債権者の各債権は弁済並に弁済供託によつて消滅し、且競売手続費用をも弁済供託したから本件各抵当権は消滅に帰した旨主張するけれども、抗告人提出の資料によるも右の事実を認めるに足らず他にこれを肯認すべき資料はないから抗告人の右主張は採用の限りでない。

次に抗告人は原決定は民事訴訟法第六百七十五条に違反する旨主張するところ、成程競売法には民事訴訟法の右法条を準用する旨の規定がないとはいえ、任意競売と強制競売との性質上の類似性に鑑み、抵当権実行による不動産競売についても民事訴訟法の右法条を類推適用すべきが相当であると解すべきではあるが、同法条は数個の不動産の競落の許否を決するに当り最高価競買人の競買申出価格を規準として右不動産のうち一部の不動産の競買申出価格だけで各債権並に競売手続費用を償うに足るか否かを検討し若し一部のみにて足るときは他の不動産については競落を許さず且当該不動産に関する限り競売手続を終結すべきことを定めるものであるところ、本件においては後に職権を以て判断するように新競売期日を定めて更に競売を続行すべきこととなるからその場合は先の最高価競買人の競買申出は失効し従つて右法条に基く判断の規準となるべき前示競買申出価格なるものは遡及的に消滅し規準を失うこととなるわけである。従つて仮に抗告人主張の如く本件(一)ないし(四)の不動産のうち一部の不動産の競落代金のみで各債権並に競売手続費用を償い得た筈であるとしても、右は失効すべき競買申出価格を規準としていいうるに過ぎないのであつて、新競売期日において競買申出のあるか否か及び申出価格の幾何なりや全く不明の現在、当裁判所としては他の不動産について競落不許を宣し該不動産に関し競売手続を終結させることはできない筋合である。(なぜならば、先の競買申出価格によれば一部不動産の競落代金にて充分の場合においても、新競売において最低競売価格が低減された結果右の一部不動産の競落代金のみにては足らない場合が起りうることは想像に難くないからである。)従つて結局この点に関する抗告人の主張もとり得ないわけである。

最後に抗告人は、原競落許可決定には、最高価競落代金の合計額を一括して表示し、各不動産別にこれを明示してないと主張するところ、一件記録中の原決定を検すれば抗告人主張のとおりであるが、本件競売手続においては、各不動産別に最低競売価格が定められ且その旨の公告がなされ、最高価競買人の競買価格の申出も各別になされたことも一件記録に徴し明らかであるから、原決定が各不動産別に最高価申出価格を以て競落を許したものである趣旨は、右記録から充分うかがえるから、決定書の表示自体は多少不明確のそしりはまぬかれないにしても取消すべき瑕疵となすに足りない。よつてこの点に関する抗告人の主張も理由がない。しかしながら職権を以て調査するに、本件競売不動産はいずれも農地であること記録上明らかであるから、農地法第三条により知事の許可なき限り、仮に競落許可決定が確定し、競落人が代金を完済しても同人において所有権を取得することはできないのである。任意競売においては、競落許可決定が確定すれば競落人は直ちに代価を支払うことを要し、右代金の完済と同時に当然に不動産の所有権を取得する(競売法第三十三条参照)のであつて、このことは法律上の売却条件である。従つて、農地に関しては、この条件を充足するためには最高価競買人は競落許可決定前に農地法第三条による知事の許可を得、かつその旨を疎明して始めて裁判所は競落許可の決定を言渡すべきであると解するを相当とする。なぜならば、右の許可前に競落を許したとすれば、若しその後許可を得られなければ競落人において決定確定後代金を完済しても所有権を取得できず、また許可を得られたにしても許可手続に相当の期間を要した場合は、その期間内は所有権の移転は不可能であるから裁判所としては爾後の手続を進行するに由なく競売手続は遅延し、いずれにしても爾後の競売手続は不安定な状態におかれるわけであり、このような手続の遅延ないしは不安定は競売手続にとつて致命的ともいえるからである。しかるところ、一件記録を精査するも本件においては競落許可決定前、農地法第三条による知事の許可があつたことを認めるべき何等の資料がないから、原裁判所は農地である本件不動産につき所有権移転に関する知事の許可なきに拘らず競落許可決定をなしたものと認める外はないから、違法として原決定を取消し、本件各不動産に対する競落を許さず、民事訴訟法第六百七十六条に従い原裁判所において更に新競売期日を定むべきものとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 山崎寅之助 安芸修 荻田健治郎)

目録

(一) 温泉郡北条町大字本谷字宮の前甲三百三十八番地

一、田 九畝四歩

(二) 同所同字甲三百二十八番地の一

一、田 五畝九歩

(三) 同所字宮の越甲三百七十一番地

一、田 三畝十五歩

(四) 同所字宮の前甲三百二十九番地

一、田 三畝歩

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